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そのカップル

「ねえねえ、GWさあ、バイトの友達と台湾にいくんだけど、そしたら遊べないの、空いてる日が全部埋まってしまって」
「へえ、台湾行くんだいいじゃん」
「いや、いいのはいいんだけど。
とおちゃんは何すんの?」

きっととおちゃんというのは
この男の名前であり、とおるっていう名前なのだろう。

「おれーは、予定とか、まあ
決まってないなあ」

女の人は「ふうん」と言い、髪の毛をポニーテールにくくる。


一体仕事が何なのか、DJなのかショップ店員なのか、おしゃれなサラリーマンなのか検討が付かないが、その顔からは何か隠しているとは判断できなかった。

とおちゃんは画面を横にしたまま、動画を音なしで見ている。

「あ、もうすぐだ」

電車は減速していき、やがて停まると
その男は降りて、バイバイして、そこで別れた。

女の人は一人になるとスマホを出して、いじっていじって、画面をじーっと眺めて、ピアスを外し、ほっぺたをぷうっと膨らませ、それからため息をし、画面から目を離した。

そして、鞄からイラストの描かれた台紙を取りだし、広げて眺めた。たぶん、
あれはUSJのキャラクター。台紙で太陽みたいな顔をしたキャラクターが飛んでいる。そしてその中には二人の写った写真が挟み込まれている。
私はしばらく目を離していた。もう電車は先ほどのように混んでいなかった。この車両の人は全員座っている。

もう降りなきゃいけなかったので、最後に彼女をチラッと見た。
その写真を抱き締めつつぼんやりしてた。

はあ彼女なんて純粋なのだろう。見た目じゃ分かんないけど。とおちゃん、この女の人と長く続いてほしい。

というプチほっこりしたという話である。

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